術語「照応」は、漢文、国文(日本古典文)、国語教育、日本語教育という隣接諸領域で使われてきているが、その定義は同じではない。いったいどのような実用の歴史を経て今日に至っているのか、戦前期に出版された各界各書における定義や例文の説明を具体的にたどりながら、「照応」の概念と価値の変遷について調査した。戦前の国文界における定義は、「呼応(副詞、文語的言い回し)、係り受け(時制、格.文の成分)」という四つの文法的概念と、「首尾一貫等、必然性等」という二つの文章法的概念に整理できる。これは、漢文界を始原として、書くための文章作法と読むための解釈法との両面で重用されたものだが、戦後は漢文.文語文の退潮にともなって術語としても一時的に廃れた。