第二次世界大戦後の日本において、日本文学・国文学の新しい研究について、どのように議論されたかを検討する。国文学・日本文学のナショナルな枠組は明治期に創出された。それは、第二次世界大戦後の冷戦体制下の新しい国際環境を背景に、どのように受け継がれ、組み替えられたのだろうか。特に、戦後におけるマルクス主義国文学者を代表する一人と目される西郷信綱の、一九四〇年代から五〇年代にかけての言論を中心に、その問題を考察する日本文学の世界性・国際性をめぐる当時の議論は、アメリカによる占領を前提とした国際協調主義を目指すものと、ソビエトや中国ら社会主義諸国を意識したものの、異なる二つの方向からのものがあった。だが、そうした東西冷戦下の「世界文学」をめぐる議論でしばしば忘れられがちとなったのは、かつて戦前・戦中の「大日本帝国」が、大東亜共栄圏という日本を中心とした独自の世界秩序を構築しようとした過去だった。