本論文の主な目的は、日本語の「目」という身体語彙と、ロシア語の「目」(глаз)という身体語彙を含む慣用句を例として、比較文化言語学の観点から、これらの慣用句の意味を分析し、両言語における言語文化の共通点と相違について考察することである。慣用句は定型句に属し、単語の二つ以上の連結体であり、その単語の結びつきが比較的固く、全体で決まった意味を持つ言葉である。特に身体語彙を含む慣用句は、意味的にかなり安定性を持っており、民族的色彩もその中に強く反映されている。例えば、「目と鼻の先」という日本語の慣用句は、ロシア語で言うと、「рукой подать」(直訳:手で渡せるところ)になる。いずれも慣用句であるが、日本語では「目」という身体語彙が使われるのに対して、ロシア語では、「рукой」(手で)が使われている。日本語における身体語彙は、「目」を含むものが最も多く存在し、その数はおよそ150である。それに対して、ロシア語に一番多く見られる身体語彙慣用句は、「手」(рука)である。筆者の統計によると、その数は138に達する。「目」という身体語彙は、民族や文化の違いにもかかわらず、人間の体の一部としての機能性から見れば普遍的なものである。例えば、ロシア語の慣用句「бросаться в глаз」(直訳:物を目になげりこむ)と「пробежать глазами」(直訳:目の脇を走りぬける)は、それぞれ日本語の「目につく」、「ざっと目を通す」という慣用句にあたる。本稿では、日本語の「目」とロシア語のそれに該当するもの-「глаз」を100個ほど取り上げ対照研究を試みた。これらの身体語彙慣用句の意味分析を通じて、両言語の相違や共通点を明らかにすると同時に、言葉と文化との関わりを垣間見ることができると思われる。