これまで筆者は、長年にわたり、平安時代の物語文学への考察と研究を行ない、『竹取物語』が「物語の祖」と称することができるのは、『竹取物語』に含まれる「物語の要素」が平安時代の他の物語文学作品に影響しているためだと気付くに至った。この中で、『竹取物語』における五人の「好色の輩」と称される王族や貴族は「若く美しい異性に憧れ」、「相手をもっとよく見つめたいと思い」、あるいは「相手を自分のものにしようとする」などの求婚の行為が見られ、ついには作者が帝を5人の公達が求婚に失敗した後に登場させ、また帝にもかぐや姫に求婚させ、さらに略奪婚の描写が繰り広げられる。『竹取物語』の後の物語作品も、ほとんどが男女の求婚、恋愛、結婚など恋愛をめぐってなされれている。もし、「略奪婚」という求婚のバリエーションの創作手法を特に取り出し、平安時代の物語文学作品に対象を広げてみれば、物語のもう一つの「物語的要素」を見つけ出せ、興味深い問題となるのではないだろうか。というのは『竹取物語』、『伊勢物語』、『宇津保物語』、『落窪物語』、『源氏物語』などの物語文学の経典にはいずれも「略奪婚」のエピソードが貫かれているからである。この論文発表を通じ、作品における例を見つけ出し、さらに作品に描かれた内面をまとめたい。これによって、物語文学における求婚のバリエーションという文芸現象から、それが「物語要素」となる重要性とその創意性を探っていきたい。