芥川龍之介は、外枠となる物語の中に本体となる物語がはめ込まれたような構造を持つ小説=額縁小説を多く書いている。本稿は、典型的な額縁構造を持つ「開化の殺人」と境界的な例である「舞踏会」について検討し、それらの小説において額縁が果たしている機能について述べ、そうした構造が作品の完成度とどう関わっているかを論じている。さらに、額縁構造がもっとも必然的に選択された例として「奉教人の死」を取り上げた上で、「河童」と大岡昇平の「野火」を比較し、芥川の額縁小説の方法的問題点を指摘した。その上で、芥川がそうした小説を書くに至った動機、あるいは、それを促す同時代読者の小説受容の様相について論及し、芥川の内的動機もさることながら、小説を作者と直接的に結びつけて読もうとする読者のあり方が影響していることを述べた。