「皆様を私たちでしかできないお迎え方をいたします。それは日本語ではたった一言で表現できます。おもてなし。それは訪れる人を心から慈しみお迎えするという深い意味があります」2020年の東京オリンピック招致にあたり、日本側のプレゼンターがこう語ったことは記憶に新しい。「おもてなし」は、日本の文化を代表する(とされる)言葉の一つである。CiNiiで「もてなし」に関する先行研究を調べると、その数は1000件以上にのぼる。「もてなし」は日本人自身も関心を寄せる言葉だと言える。ただ先行研究のほとんどは、「日本的」な「おもてなし」を、観光業をはじめとするビジネスにどう活かすか、というものが大半を占める。研究者が学問的手続きをふんで書いたものは実はきわめて少ない。「もてなし」の語義についても、観光学の研究者が論じたものが散見するが、出典(底本)のテキストを明示しないことをはじめ、問題点が多い。意外なことに『語彙研究文献語別目録』(明治書院、1983)や国立国語研究所の「日本語研究・日本語教育文献データベース」(http://www.ninjal.ac.jp/database/bunken/)で「もてなし」「もてなす」という項目を調べても先行研究はほとんど見出せない。こうした状況に鑑み、本稿では、筆者が専攻する日本中世文学の作品等に出てくる「もてなし」の語義を整理・把握し、今後の研究の基礎をきずきたいと考える。